かつて通信機器メーカで働いていた。バブル絶頂で世界をリードしていたころから日本国内市場だけを狙いこの中で汲々としているところまで、この本に書かれている通りを体験した。
10年数年ほ前アメリカで働いていたとき電気店で、SONYといえども単機能で安い「ラジカセ」しかない(つまり高級品はない)のを見て非常にびっくりした。
1990年代末、日本のPHSが小さく軽く、高機能なのに驚いた。日本で普通に手に入るピッチはAT&Tのセルフォンの電池の大きさだった。MD、ピッチどれもきれいで小さく、精巧なつくりですばらしかった。ほんの10年前だったのに、あの勢いはどこへ消えてしまったのか。
2000年のITバブル崩壊時に「これからはカスタマイズで生きていく、徹底的に顧客密着で行く」と決断した会社に違和感を覚え結局転職した。エンジニアとしての独創力はもはや必要とされない、と知ったからである。
世界市場を目指すか、日本にフォーカスするかは難しい判断。が、結局Global、エマージングマーケットまで視野に入れないと生き残りが出来ないことを本書は示している。日本市場が縮退しているからだ。通信機器を見ると、グローバル市場で巨大なシェアを持ち高い利益率と潤沢なキャッシュを持つ企業に、日本の特定顧客のみを相手としている日本のベンダではもはや戦うことすら出来なくなっているのではないか。筆者は総合電機の終末と、一部電子部品だけが生き残るであろうことを示唆している。 GEの例を引いて、勝てるところに資源をつぎ込め、すり合わせが必要な高度な領域を狙えとも語っている。資金不足と低い労働生産性、執念に欠けるリーダの元で生き残れるのか。 重い本である。
派遣切り、受注減によるワークシェアが話題にならない日はない。だが、著者は台湾ベンダが創業率50%でやっていけることを示している。日本のメーカーはオーバヘッドの大きいのである。
製造業の再生と発展は日本の将来の鍵である。これは何も高度な職人技の継承ではあるまい。グローバルでの分業と知的財産の蓄積、そして政策によるバックアップが必要である。