文楽、志ん生は昭和の二大名人。それぞれ八代目と六代目。時計のように正確で、少数のネタを磨いた文楽、自由闊達な志ん生、と高座も生き方も対照的に語られるが、文楽のラジオ番組の録音を聞いて、洒脱で軽い所もあるのだとびっくりした記憶がある。
未だに文楽といえば八代目と言われるのだから、九代目はさぞやりにくいだろう。そんな九代目が『週刊実話』に連載した短文をまとめた物。
軽くて短くて、あっさりしているのは週刊誌連載だからだろう。頭を使わず、気楽にサラッと読めることに徹しただけあって、内容もあっさり。懐かしい昔の思い出、誰にも迷惑のかからないいい話、苦労話も修行の辛さもホンワカと語られるから、臨場感も緊迫感もない。
修行の辛さや、恨みつらみ、文楽をついでの苦労には、妬みやそねみもあるだろうから、グイグイと抉っていたら読み応えも、さすが九代目ということにもなっただろうに。 ★(あっさり読めて、それだけ)