昭和30年代の小学生であった著者の自伝的小説。社会が急激に豊かになる直前を背景として、小学校1年から4年までの生活を描く。
今は隠されていて表からは見えない「差別」や「貧困」がむき出しだった時代が、「特別で早熟、大人が制御できない」惟朔少年を作った。しかし、周囲と折り合いのつけられない少年は小学校4年生にして社会からはじき出され施設に入れられてしまう。
今は文章を素読させる親もいないし、楽しみも金も簡単に手に入るのだから、現代なら全く別の惟朔少年が生まれたことであろう。周囲と違うことをぼんやりと意識している惟朔少年は、これからどこへ行ってしまうのか? この続編は「百万遍」。
萬月の各小説はどれも特別の「力」に満ちていて、読むと主人公に同化してしまう。この小説もそうだ。「空き地」「土管」「砂利道」は同化させるための触媒だ。お勧め。
30年代はどろどろしたパワーに満ちている: ★★★(生きていくだけでも力が要るすごい時代だった、だから皆痩せていたのだ)
惟朔は磁石だ:★★★(ぴったりとくっついてしまう人と反発して離れてしまう人。中間はいないのだ)