2012年7月25日水曜日

夜想(貫井徳郎)

雪籐は交通事故で妻と娘を失い、深い喪失感を埋めることができない。持ち物から人の心を読み取る能力を持つ遥と出会い、遥の力により人を救う活動をはじめる。新興宗教にはしたくないという雪藤の思いとは裏腹に、新たな宗教の始まりが描かれる。教祖と幹部、純粋さと金儲け、利益を得ようとする者、人助けを教条とする守るべきだという幹部。その中で雪藤は中心的な役割を果たすが、暴漢による遥の怪我により会は解散状態となる。中だるみを経て一気にクライマックスへ、最後で明かされるの雪藤の異常な行動が怖い。★★
定価 1,667円

2012年7月24日火曜日

氷の家(ミネット・ウォルターズ)

CWA最優秀新人賞というからすごいに違いないと思って久しぶりに読んだ英国ミステリー。10年前に実業家の夫が失踪、殺人の疑いで世間の注目を浴びた古い屋敷で腐乱死体が見つかる。再び注目される屋敷と世間から隔絶した環境で過ごすここに住む3人の夫人たち。10年前の事件を蒸し返そうとする主席警部、アル中気味で妻に逃げられた部長刑事と個性的な登場人物。腐乱死体は失踪した実業家なのか、違うのか。同時期に行方不明となった男たち、曰く有りげな住民たち。誰が本当のことを言い、誰が嘘つきなのか、週末直前まで翻弄されっぱなし。もっと翻訳が読みやすいといいのだが。 定価 2,400円。★★

2012年7月23日月曜日

百年前の山を旅する(服部文祥)

山を始めた頃から比べると装備の高度化はすごい。軽くて便利、暖かくて濡れない、そんな装備を手にして、アプローチは車でできるだけ奥まで行く、道もしっかり付けられているから誰でも簡単に山頂まで行くことができる。現代の装備を持たずに山に登る、昔の記録のとおりにたどってみる。雑誌の企画として取り組んだのは秀逸、さすがは岳人だ。あるいは、今の装備ではもう日本では登攀欲をかき立てるものは無いということだろう。紀行文としては読みにくく、記録として読むには中途半端。立山奥山廻りなど、古い峠道を探しだすとか、新しい道を開くなど、もっと詳しく知りたいところだ。もっともっと詳しく知りたい。 定価 1,714円。★★

2012年7月19日木曜日

兇弾(逢坂剛)

南米マフィアとの抗争で死んだ禿鷹。彼が手に入れた神宮署の裏金作りを記録したヤミ帳簿は警察庁に届けられるが、結局組織の論理でヤミに葬られてしまう。警視庁へ届けた神宮署の御子柴が持つコピーまで回収しようと画策する警察庁とその意を受けて働く岩動警部。ヤクザを罠にかけ殺人させることで意のままに操ろうとする悪徳刑事だ。禿鷹こそ居ないものの、お馴染みの渋六興業の面々、バーのマダムに、妖艶な禿鷹の未亡人と役者は相変わらず個性的だ。すっきりすること請け合い。定価 1,905円 ★★

2012年7月18日水曜日

芸能鑑定帖(吉川潮)

演芸評論家として、好き嫌いをハッキリと書くことは勇気がいるだろう。出てくるのは立川流以外には一握りの落語家だけが聞くに足ると言う。白鳥、正蔵はダメとバッサリ切り捨てる。年末の落語会でトリが白鳥で落語の美学が汚されたと、慌てて談志の芝浜を聞いて、やっと年が越せるという。落語は生で聞け、故人の名人をCDできいても仕方ないという。ハッキリの物言いは爽快。桂あやめがいい、というのも気に入った。
定価 1,800円 ★★★

2012年7月17日火曜日

さよならは2Bの鉛筆(森雅裕)

森節全開バリバリである。名門音楽大学付属高校でピアノ専攻の「暁穂」が活躍する学園ハードボイルド。小粋なセリフに痩せ我慢、ハマっ子の矜持とプライドで突っ走る暁穂の後をひたすら追いかければいい。
彼女はモデラートは学園ミステリー、暁穂の推理の冴えを堪能。郵便カブへの伝言は、バイク乗りへのオマージュだ。改造カブで白バイ乗りを罠にかける、爽快痛快ハードボイルド。さよならは2Bの鉛筆は、役者がいい。母親も探偵も、父親もいい味。
定価1,100円 ★★★ 続編読みたいけど、絶対に無理か、、、

2012年7月16日月曜日

マラソンは毎日走っても完走できない(小出義雄)

小出監督のマラソン練習本。フルマラソンで30kmからの失速するのは、毎日トコトコ走っても解決しない。メリハリの有るトレーニングで筋力をつけることが必要と説く。すぐ実践できるメニューが分かりやすく解説されているから、読めばヤル気が出てくる。
坂道インターバルや一週間メニュは早速試している。レースに出たことのあるランナーなら誰にでも参考になるだろう。ミスリードさせるような題名はいただけない。刺激的な題名でマラソン初心者に売り込もうというのだろうが。定価780円 ★★★

2012年7月14日土曜日

機上の奇人たち(エリオット・ヘスター)

古い本を引っ張りだして読む。2002年発酵だから10年前。黒人フライトアテンダントの体験談。どの業界でもヘンなヒト、おかしな出来事はあるはずだが、閉ざされた機内、高度1万メートルという特殊環境が面白みを増幅させる。
体験しただけでも、電話を引っ張りだして元に戻せなくなった人、太り過ぎでシートベルトに延長ベルトを継ぎ足した人、マドリッド到着寸前のスペイン国歌の大合唱などがあった。絶対に機内はヒトをおかしくする何かがあるに違いない。 定価667円 ★

2012年7月13日金曜日

絵本・落語風土記(江國滋)

60年台後半に「随筆サンケイ」に連載、70年に青蛙房から刊行されたというから、40年以上前。落語の舞台を歩きめぐる。落語が江戸・東京の市井の文化であることがよく分かる。「百川」で常磐津の師匠が住んでいたのが「三光新道」、人形町駅と小伝馬町駅の間だ。「居残り佐平次」は「八ツ山橋」のそばの海辺。遠くは、「千住」に「王子」、落語会の住民の目で今の街を見る。土蔵相模の変貌に驚き、東京タワーの展望台で地球が丸いことを確認する。東京オリンピックで変わった当時の風景と確かに残っている落語の世界を結びつける。筆者が落語に造詣の深いだけでなく、当時はそこかしこに落語世界がのこっていたのだ。懐かしくてちょっと悲しい。定価680円 ★★★

2012年7月12日木曜日

電脳娼婦(森奈津子)

表紙に惹かれて借りだしたけど、エロ小説とは知らなかった。あの世と通信して小説のネタ探し、奴隷として買った男がじつは自分を殺した奴だった。いきなりの設定でガツンとやられる。電脳娼婦の驚きの設定にびっくり、そして結末で二度目の驚き。最期まで読んで、あとがきを読んでSFだったことを知る。SF原理主義者からは「SFではない」と言われるそうだが、SFの定義(きっとあるに違いない)なんてどうでもいいのに、楽しく読めればそれでOK。定価1 1,500円 ★★ 馬鹿馬鹿しいけど、面白い。続編待ってます。

2012年7月11日水曜日

神の柩(本岡類)

本岡類を読んだら面白くなかった、書評を見ると「神の柩」が一番らしいからチャレンジ。
編集スタジオを経営する「柏木」を訪ねてきた新聞記者時代の友人「江崎」は翌朝には溺死体で発見される。自殺と処理された江崎の死に関係しているらしい「理性の跳躍」を調べ始めた柏木には警告が届き妻も事故にあう。代表の高宮は公演先のアメリカで事故死し、江崎の取材をなぞるって高宮の故郷を訪れた柏木は一気に事件の真相に迫る。最後の柏木の脱出行と、すべての伏線が収束しカラリと解き明かされるのは、爽快。 定価 1,800円 ★★★ 一気読み、大満足

2012年7月10日火曜日

スプートニクの恋人(村上春樹)

いい題名だなぁ「スプートニク」、実際には「ビートニク」なのだが、どちらも素敵だ。
「すみれ」が「ミュウ」に恋したことから物語は始まる。「ぼく」とすみれはお互いほとんど唯一の理解し合える友人。すみれはミュウのもとで働くことになり、二人はイタリアからフランスへと買い付けの旅に出る。すみれは旅の終わりのギリシアの島での「消えてしまう」。ミュウに呼び出されたぼくは島まで向かうが、探し出せぬまま帰国する。すべてがフワフワとして存在感がなく夢かであるように進行する。雲の中でウトウトしているような半覚醒の心地よさ。それぞれが衛星に乗って宇宙軌道にいるように、近づいたり、離れたりしながら遠くをさまよっているのが気持ちいい。定価 1,600円。★★★

2012年7月9日月曜日

中国でお尻を手術(近藤雄生)

昆明で内視鏡手術でポリープを取るという大変な経験で始まる。内視鏡が壊れて20日待つ、内視鏡はすんなり入らず、ポリープとれたら皆で「好」の掛け声、とか、術後の最初の食事が普通食以上の油ギトギト青椒肉絲、驚きの手術記。でも面白いのはここまで。
定職無いまま夫婦でプラプラ海外暮らし、タイから雲南に入って、学校入って、チベット旅行して、上海に引越し。30近くで物書きになれるか心配で不安、とイジイジ、じっとり綴られる。もっと知りたいチベットや、昆明生活はさらっとし過ぎで物足りない。 定価 1,600円 ★もっと面白い体験して、オオッという驚きを知らせてくれ。

2012年7月8日日曜日

マン島物語(森雅裕)

マン島T.Tといえば本田が世界のホンダとなった1961年のレースで有名。その後もスズキ、ヤマハが優勝するなど、高度成長期の躍進の象徴でもあった。しか、しあまりに危険な公道レースは1977からWGPから外され市販車ベースのレースになった。そんな時代、ジョイ・ダンロップがホンダで連勝していた時代の物語。
自分のマシンを壊してしまい、ドカティチームで走る事になった三葉邦彦。撮影で訪れていた元アイドルの真弓がチームの一員として加わる。好いていながら意地の張り合いをする二人、彼らを取り持とうとする小学生のニコラを軸に話は進む。シニカルな文体になれるまではちょっと大変。だが、レースになると一点、適格でカチッとした文体で邦彦の走りが伝わる。危機を乗り越え、最後に優勝すると思われた邦彦。 だが、文体は難しい。慣れたら気持ちがいいのだが、例えば「体格はいい娘だった。それでも女であることを忘れさせるにはほど遠い」。どういう意味だろう。
定価1,450円 ★★ (最後はもっともっとハッピーにして欲しいけど)

2012年7月7日土曜日

悲鳴 (東直己)

マン島T.Tといえば本田が世界のホンダとなった1961年のレースで有名。その後もスズキ、ヤマハが優勝するなど、高度成長期の躍進の象徴でもあった。しか、しあまりに危険な公道レースは1977からWGPから外され市販車ベースのレースになった。そんな時代、ジョイ・ダンロップがホンダで連勝していた時代の物語。
自分のマシンを壊してしまい、ドカティチームで走る事になった三葉邦彦。撮影で訪れていた元アイドルの真弓がチームの一員として加わる。好いていながら意地の張り合いをする二人、彼らを取り持とうとする小学生のニコラを軸に話は進む。シニカルな文体になれるまではちょっと大変。だが、レースになると一点、適格でカチッとした文体で邦彦の走りが伝わる。危機を乗り越え、最後に優勝すると思われた邦彦。 だが、文体は難しい。慣れたら気持ちがいいのだが、例えば「体格はいい娘だった。それでも女であることを忘れさせるにはほど遠い」。どういう意味だろう。
定価1,450円 ★★ (最後はもっともっとハッピーにして欲しいけど)

2012年7月6日金曜日

すっぴん魂 カッパ巻き(室井滋)

週刊文春連載の「すっぴん魂」。文春は連載が面白いが、「すっぴん魂」並み居る連載陣の中で長寿、不動の人気を誇る。
どうしてこのヒトの周りにはおもしろ事件が集まってしまうのだろうか。トイレに行こうとして全裸でホテルの廊下に締め出されてしまう、経験者が知人にいるのは珍しいだろう。タイツを垂らした美女、バスタオルを巻いて湯船に浸かる女。室井さんにはヘンなヒトを集めてしまう磁石が備わっているに違いない。定価467円。★★(読んで楽しく、すっきり和める。

2012年7月5日木曜日

山のいで湯行脚(美坂哲男)

山と渓谷に「クマさんのいで湯行脚」として連載されていた。古い記録では昭和35年なんていうのがあるから、もう50年前だ。連載終了が1974年、発刊が1980年。ひなびの温泉も農民温泉も、高度成長、バブル、温泉ブームを経て大規模旅館や日帰り温泉に衣替え、循環が普通になって「掛け流し」や「天然温泉」をわざわざ明示することが必要になる時代が想像できただろうか。鈍行とバスを使い、ひたすら歩き、越中を愛用、短パンと上半身裸、ビールを瓶からがぶ飲み、飯はたらふく、まさに戦中世代の面目躍如だ。連載中から古い温泉のばかりだなぁ、と感じていたが、40年もたって読み直すと、今でも鄙び温泉を探すガイドになるのがすごい。定価1,200円 ★★★(マニアならガイド、もはや入れない温泉もあるしね)

2012年7月4日水曜日

Touring MAPPLE 全日本

バイカーのバイブル Touring MAPPLEに2012年版から追加された「全国版」。まるごと全国カバーしているのがいい。表紙デザインは最低。ピンクの見出しにローマ字でのエリア表示。HokkaidoとかKyushu-Okinawaとかマヌケ感全開。
当然、中身は充実。全部省かれてしまったレストランは残念だが、温泉、名所案内は便利。エリア集成図で狙いを定めてTouring MAPPLEならではの一言案内をたよりに読み進めれば、時間も忘れる。定価1,600円。★★★全開バリバリツーリング。

2012年7月3日火曜日

重蔵始末(逢坂剛)

火付盗賊改方の与力「重蔵始末」の勘が冴える。同心の与一郎、密偵の団平を従えて、愛用の鞭で悪人を始末する。小料理屋はりまの家内と登場人物も魅力的。発端からグイグイと引きこまれてしまう。意外な結末、重蔵の推理の冴え。
学問と武道に秀でた圧倒的力をもつ主役に、軟弱気味の同心、緻密な密偵に、やさしい色気の家内、脇役も個性的。火盗改といえば「平蔵」だが、人情味にあふれる「平蔵」とは対極にある力と頭脳で勝負の「重蔵」。新ヒーローの誕生だ。定価 1,700円。★★★ すでにシリーズ化されていた、のも納得の面白さ。



2012年7月2日月曜日

絶対零度(本岡類)

子供をイジメでなくし共同事務所を追い出された山岡のもとに、覚せい剤中毒者の殺人の弁護が回ってくる。接見での会話からおやじ殺しゲームでのトラウマが引き起こした事件ではないかと疑った山岡は、事務所の千鶴とともに調査をはじめる。調査はぎこちなく山岡のダメさ加減にイライラするが、結局覚醒剤中毒者を殺人者に仕立てあげる。過激なゲームでPSTDとし、怒りの爆発を起こさせるという無差別殺人が仕組まれていたことがわかる。最後に山岡の大活躍で結末。
定価 2,200円。★ テーマは面白いのだが山岡のダメさが残念。

2012年7月1日日曜日

本日、東京ロマンチカ(中野翠)

2006年11月から2007年11月までサンデー毎日に連載されたコラムをまとめたもの。映画、出来事が主体。読めば当時何が起こっていたかを追体験出来る仕掛け。
当時は不二家、赤福が賞味期限切れ問題を起こしていた。ハンカチ王子の人気沸騰とか、亀田兄弟バッシング、阿部首相の突然の辞任、はるか昔のような、つい最近だったような不思議な気持ち。マスコミの報道は結局いつも同じなんだなぁ、旬を追い求めてそのままポイ。毎年役者が変わるだけで、人気者、敵役、ダメな政治家、が作られていく。
定価 1,238円 ★★ 1985年から続く人気コラムと走らなかった、毎年恒例に読むと面白いかも。