2012年7月25日水曜日

夜想(貫井徳郎)

雪籐は交通事故で妻と娘を失い、深い喪失感を埋めることができない。持ち物から人の心を読み取る能力を持つ遥と出会い、遥の力により人を救う活動をはじめる。新興宗教にはしたくないという雪藤の思いとは裏腹に、新たな宗教の始まりが描かれる。教祖と幹部、純粋さと金儲け、利益を得ようとする者、人助けを教条とする守るべきだという幹部。その中で雪藤は中心的な役割を果たすが、暴漢による遥の怪我により会は解散状態となる。中だるみを経て一気にクライマックスへ、最後で明かされるの雪藤の異常な行動が怖い。★★
定価 1,667円

2012年7月24日火曜日

氷の家(ミネット・ウォルターズ)

CWA最優秀新人賞というからすごいに違いないと思って久しぶりに読んだ英国ミステリー。10年前に実業家の夫が失踪、殺人の疑いで世間の注目を浴びた古い屋敷で腐乱死体が見つかる。再び注目される屋敷と世間から隔絶した環境で過ごすここに住む3人の夫人たち。10年前の事件を蒸し返そうとする主席警部、アル中気味で妻に逃げられた部長刑事と個性的な登場人物。腐乱死体は失踪した実業家なのか、違うのか。同時期に行方不明となった男たち、曰く有りげな住民たち。誰が本当のことを言い、誰が嘘つきなのか、週末直前まで翻弄されっぱなし。もっと翻訳が読みやすいといいのだが。 定価 2,400円。★★

2012年7月23日月曜日

百年前の山を旅する(服部文祥)

山を始めた頃から比べると装備の高度化はすごい。軽くて便利、暖かくて濡れない、そんな装備を手にして、アプローチは車でできるだけ奥まで行く、道もしっかり付けられているから誰でも簡単に山頂まで行くことができる。現代の装備を持たずに山に登る、昔の記録のとおりにたどってみる。雑誌の企画として取り組んだのは秀逸、さすがは岳人だ。あるいは、今の装備ではもう日本では登攀欲をかき立てるものは無いということだろう。紀行文としては読みにくく、記録として読むには中途半端。立山奥山廻りなど、古い峠道を探しだすとか、新しい道を開くなど、もっと詳しく知りたいところだ。もっともっと詳しく知りたい。 定価 1,714円。★★

2012年7月19日木曜日

兇弾(逢坂剛)

南米マフィアとの抗争で死んだ禿鷹。彼が手に入れた神宮署の裏金作りを記録したヤミ帳簿は警察庁に届けられるが、結局組織の論理でヤミに葬られてしまう。警視庁へ届けた神宮署の御子柴が持つコピーまで回収しようと画策する警察庁とその意を受けて働く岩動警部。ヤクザを罠にかけ殺人させることで意のままに操ろうとする悪徳刑事だ。禿鷹こそ居ないものの、お馴染みの渋六興業の面々、バーのマダムに、妖艶な禿鷹の未亡人と役者は相変わらず個性的だ。すっきりすること請け合い。定価 1,905円 ★★

2012年7月18日水曜日

芸能鑑定帖(吉川潮)

演芸評論家として、好き嫌いをハッキリと書くことは勇気がいるだろう。出てくるのは立川流以外には一握りの落語家だけが聞くに足ると言う。白鳥、正蔵はダメとバッサリ切り捨てる。年末の落語会でトリが白鳥で落語の美学が汚されたと、慌てて談志の芝浜を聞いて、やっと年が越せるという。落語は生で聞け、故人の名人をCDできいても仕方ないという。ハッキリの物言いは爽快。桂あやめがいい、というのも気に入った。
定価 1,800円 ★★★

2012年7月17日火曜日

さよならは2Bの鉛筆(森雅裕)

森節全開バリバリである。名門音楽大学付属高校でピアノ専攻の「暁穂」が活躍する学園ハードボイルド。小粋なセリフに痩せ我慢、ハマっ子の矜持とプライドで突っ走る暁穂の後をひたすら追いかければいい。
彼女はモデラートは学園ミステリー、暁穂の推理の冴えを堪能。郵便カブへの伝言は、バイク乗りへのオマージュだ。改造カブで白バイ乗りを罠にかける、爽快痛快ハードボイルド。さよならは2Bの鉛筆は、役者がいい。母親も探偵も、父親もいい味。
定価1,100円 ★★★ 続編読みたいけど、絶対に無理か、、、

2012年7月16日月曜日

マラソンは毎日走っても完走できない(小出義雄)

小出監督のマラソン練習本。フルマラソンで30kmからの失速するのは、毎日トコトコ走っても解決しない。メリハリの有るトレーニングで筋力をつけることが必要と説く。すぐ実践できるメニューが分かりやすく解説されているから、読めばヤル気が出てくる。
坂道インターバルや一週間メニュは早速試している。レースに出たことのあるランナーなら誰にでも参考になるだろう。ミスリードさせるような題名はいただけない。刺激的な題名でマラソン初心者に売り込もうというのだろうが。定価780円 ★★★

2012年7月14日土曜日

機上の奇人たち(エリオット・ヘスター)

古い本を引っ張りだして読む。2002年発酵だから10年前。黒人フライトアテンダントの体験談。どの業界でもヘンなヒト、おかしな出来事はあるはずだが、閉ざされた機内、高度1万メートルという特殊環境が面白みを増幅させる。
体験しただけでも、電話を引っ張りだして元に戻せなくなった人、太り過ぎでシートベルトに延長ベルトを継ぎ足した人、マドリッド到着寸前のスペイン国歌の大合唱などがあった。絶対に機内はヒトをおかしくする何かがあるに違いない。 定価667円 ★

2012年7月13日金曜日

絵本・落語風土記(江國滋)

60年台後半に「随筆サンケイ」に連載、70年に青蛙房から刊行されたというから、40年以上前。落語の舞台を歩きめぐる。落語が江戸・東京の市井の文化であることがよく分かる。「百川」で常磐津の師匠が住んでいたのが「三光新道」、人形町駅と小伝馬町駅の間だ。「居残り佐平次」は「八ツ山橋」のそばの海辺。遠くは、「千住」に「王子」、落語会の住民の目で今の街を見る。土蔵相模の変貌に驚き、東京タワーの展望台で地球が丸いことを確認する。東京オリンピックで変わった当時の風景と確かに残っている落語の世界を結びつける。筆者が落語に造詣の深いだけでなく、当時はそこかしこに落語世界がのこっていたのだ。懐かしくてちょっと悲しい。定価680円 ★★★

2012年7月12日木曜日

電脳娼婦(森奈津子)

表紙に惹かれて借りだしたけど、エロ小説とは知らなかった。あの世と通信して小説のネタ探し、奴隷として買った男がじつは自分を殺した奴だった。いきなりの設定でガツンとやられる。電脳娼婦の驚きの設定にびっくり、そして結末で二度目の驚き。最期まで読んで、あとがきを読んでSFだったことを知る。SF原理主義者からは「SFではない」と言われるそうだが、SFの定義(きっとあるに違いない)なんてどうでもいいのに、楽しく読めればそれでOK。定価1 1,500円 ★★ 馬鹿馬鹿しいけど、面白い。続編待ってます。

2012年7月11日水曜日

神の柩(本岡類)

本岡類を読んだら面白くなかった、書評を見ると「神の柩」が一番らしいからチャレンジ。
編集スタジオを経営する「柏木」を訪ねてきた新聞記者時代の友人「江崎」は翌朝には溺死体で発見される。自殺と処理された江崎の死に関係しているらしい「理性の跳躍」を調べ始めた柏木には警告が届き妻も事故にあう。代表の高宮は公演先のアメリカで事故死し、江崎の取材をなぞるって高宮の故郷を訪れた柏木は一気に事件の真相に迫る。最後の柏木の脱出行と、すべての伏線が収束しカラリと解き明かされるのは、爽快。 定価 1,800円 ★★★ 一気読み、大満足

2012年7月10日火曜日

スプートニクの恋人(村上春樹)

いい題名だなぁ「スプートニク」、実際には「ビートニク」なのだが、どちらも素敵だ。
「すみれ」が「ミュウ」に恋したことから物語は始まる。「ぼく」とすみれはお互いほとんど唯一の理解し合える友人。すみれはミュウのもとで働くことになり、二人はイタリアからフランスへと買い付けの旅に出る。すみれは旅の終わりのギリシアの島での「消えてしまう」。ミュウに呼び出されたぼくは島まで向かうが、探し出せぬまま帰国する。すべてがフワフワとして存在感がなく夢かであるように進行する。雲の中でウトウトしているような半覚醒の心地よさ。それぞれが衛星に乗って宇宙軌道にいるように、近づいたり、離れたりしながら遠くをさまよっているのが気持ちいい。定価 1,600円。★★★

2012年7月9日月曜日

中国でお尻を手術(近藤雄生)

昆明で内視鏡手術でポリープを取るという大変な経験で始まる。内視鏡が壊れて20日待つ、内視鏡はすんなり入らず、ポリープとれたら皆で「好」の掛け声、とか、術後の最初の食事が普通食以上の油ギトギト青椒肉絲、驚きの手術記。でも面白いのはここまで。
定職無いまま夫婦でプラプラ海外暮らし、タイから雲南に入って、学校入って、チベット旅行して、上海に引越し。30近くで物書きになれるか心配で不安、とイジイジ、じっとり綴られる。もっと知りたいチベットや、昆明生活はさらっとし過ぎで物足りない。 定価 1,600円 ★もっと面白い体験して、オオッという驚きを知らせてくれ。

2012年7月8日日曜日

マン島物語(森雅裕)

マン島T.Tといえば本田が世界のホンダとなった1961年のレースで有名。その後もスズキ、ヤマハが優勝するなど、高度成長期の躍進の象徴でもあった。しか、しあまりに危険な公道レースは1977からWGPから外され市販車ベースのレースになった。そんな時代、ジョイ・ダンロップがホンダで連勝していた時代の物語。
自分のマシンを壊してしまい、ドカティチームで走る事になった三葉邦彦。撮影で訪れていた元アイドルの真弓がチームの一員として加わる。好いていながら意地の張り合いをする二人、彼らを取り持とうとする小学生のニコラを軸に話は進む。シニカルな文体になれるまではちょっと大変。だが、レースになると一点、適格でカチッとした文体で邦彦の走りが伝わる。危機を乗り越え、最後に優勝すると思われた邦彦。 だが、文体は難しい。慣れたら気持ちがいいのだが、例えば「体格はいい娘だった。それでも女であることを忘れさせるにはほど遠い」。どういう意味だろう。
定価1,450円 ★★ (最後はもっともっとハッピーにして欲しいけど)

2012年7月7日土曜日

悲鳴 (東直己)

マン島T.Tといえば本田が世界のホンダとなった1961年のレースで有名。その後もスズキ、ヤマハが優勝するなど、高度成長期の躍進の象徴でもあった。しか、しあまりに危険な公道レースは1977からWGPから外され市販車ベースのレースになった。そんな時代、ジョイ・ダンロップがホンダで連勝していた時代の物語。
自分のマシンを壊してしまい、ドカティチームで走る事になった三葉邦彦。撮影で訪れていた元アイドルの真弓がチームの一員として加わる。好いていながら意地の張り合いをする二人、彼らを取り持とうとする小学生のニコラを軸に話は進む。シニカルな文体になれるまではちょっと大変。だが、レースになると一点、適格でカチッとした文体で邦彦の走りが伝わる。危機を乗り越え、最後に優勝すると思われた邦彦。 だが、文体は難しい。慣れたら気持ちがいいのだが、例えば「体格はいい娘だった。それでも女であることを忘れさせるにはほど遠い」。どういう意味だろう。
定価1,450円 ★★ (最後はもっともっとハッピーにして欲しいけど)

2012年7月6日金曜日

すっぴん魂 カッパ巻き(室井滋)

週刊文春連載の「すっぴん魂」。文春は連載が面白いが、「すっぴん魂」並み居る連載陣の中で長寿、不動の人気を誇る。
どうしてこのヒトの周りにはおもしろ事件が集まってしまうのだろうか。トイレに行こうとして全裸でホテルの廊下に締め出されてしまう、経験者が知人にいるのは珍しいだろう。タイツを垂らした美女、バスタオルを巻いて湯船に浸かる女。室井さんにはヘンなヒトを集めてしまう磁石が備わっているに違いない。定価467円。★★(読んで楽しく、すっきり和める。

2012年7月5日木曜日

山のいで湯行脚(美坂哲男)

山と渓谷に「クマさんのいで湯行脚」として連載されていた。古い記録では昭和35年なんていうのがあるから、もう50年前だ。連載終了が1974年、発刊が1980年。ひなびの温泉も農民温泉も、高度成長、バブル、温泉ブームを経て大規模旅館や日帰り温泉に衣替え、循環が普通になって「掛け流し」や「天然温泉」をわざわざ明示することが必要になる時代が想像できただろうか。鈍行とバスを使い、ひたすら歩き、越中を愛用、短パンと上半身裸、ビールを瓶からがぶ飲み、飯はたらふく、まさに戦中世代の面目躍如だ。連載中から古い温泉のばかりだなぁ、と感じていたが、40年もたって読み直すと、今でも鄙び温泉を探すガイドになるのがすごい。定価1,200円 ★★★(マニアならガイド、もはや入れない温泉もあるしね)

2012年7月4日水曜日

Touring MAPPLE 全日本

バイカーのバイブル Touring MAPPLEに2012年版から追加された「全国版」。まるごと全国カバーしているのがいい。表紙デザインは最低。ピンクの見出しにローマ字でのエリア表示。HokkaidoとかKyushu-Okinawaとかマヌケ感全開。
当然、中身は充実。全部省かれてしまったレストランは残念だが、温泉、名所案内は便利。エリア集成図で狙いを定めてTouring MAPPLEならではの一言案内をたよりに読み進めれば、時間も忘れる。定価1,600円。★★★全開バリバリツーリング。

2012年7月3日火曜日

重蔵始末(逢坂剛)

火付盗賊改方の与力「重蔵始末」の勘が冴える。同心の与一郎、密偵の団平を従えて、愛用の鞭で悪人を始末する。小料理屋はりまの家内と登場人物も魅力的。発端からグイグイと引きこまれてしまう。意外な結末、重蔵の推理の冴え。
学問と武道に秀でた圧倒的力をもつ主役に、軟弱気味の同心、緻密な密偵に、やさしい色気の家内、脇役も個性的。火盗改といえば「平蔵」だが、人情味にあふれる「平蔵」とは対極にある力と頭脳で勝負の「重蔵」。新ヒーローの誕生だ。定価 1,700円。★★★ すでにシリーズ化されていた、のも納得の面白さ。



2012年7月2日月曜日

絶対零度(本岡類)

子供をイジメでなくし共同事務所を追い出された山岡のもとに、覚せい剤中毒者の殺人の弁護が回ってくる。接見での会話からおやじ殺しゲームでのトラウマが引き起こした事件ではないかと疑った山岡は、事務所の千鶴とともに調査をはじめる。調査はぎこちなく山岡のダメさ加減にイライラするが、結局覚醒剤中毒者を殺人者に仕立てあげる。過激なゲームでPSTDとし、怒りの爆発を起こさせるという無差別殺人が仕組まれていたことがわかる。最後に山岡の大活躍で結末。
定価 2,200円。★ テーマは面白いのだが山岡のダメさが残念。

2012年7月1日日曜日

本日、東京ロマンチカ(中野翠)

2006年11月から2007年11月までサンデー毎日に連載されたコラムをまとめたもの。映画、出来事が主体。読めば当時何が起こっていたかを追体験出来る仕掛け。
当時は不二家、赤福が賞味期限切れ問題を起こしていた。ハンカチ王子の人気沸騰とか、亀田兄弟バッシング、阿部首相の突然の辞任、はるか昔のような、つい最近だったような不思議な気持ち。マスコミの報道は結局いつも同じなんだなぁ、旬を追い求めてそのままポイ。毎年役者が変わるだけで、人気者、敵役、ダメな政治家、が作られていく。
定価 1,238円 ★★ 1985年から続く人気コラムと走らなかった、毎年恒例に読むと面白いかも。

2012年6月30日土曜日

女落語家の「二つ目」修業(川柳つくし)

このヒトはそうとう図太い神経の持ち主だろう。出版社勤めを放り出しての弟子入り。師匠は何かと話題の川柳川柳、しかも唯一の弟子。修業というより介抱、介護であるはずなのに、のほほん、あっけらかん、ほんわかしてる二つ目生活。落語に縁のなかった学生時代、手土産で手に入れた弟子入り許可、放任主義の師匠、前座会長まで上り詰めての二つ目出世。苦労もあっただろうが、大きな影響力のあった興津要先生、先輩師匠連中と縁にも恵まれたのだろう。
辛いことは笑い飛ばして大きく育て、頑張れつくし。
定価 1,300円。★★★ 落語会を背負う大きな星になってくれ。

2012年6月29日金曜日

ハンラサンムル スンハンソジュ(韓国焼酎)


ダークグリーンボトルに、雪のハンラサンが聳えたラベルのご済州島焼酎。名前も名山 ハンラサンだ。甘みのあるC1と比べてサッパリ、キリリとしていて、ガツンと来る。伏流旨水で作っているすっきりしてた飲みくちは名物の黒豚サムギョプサルによく合う。韓国の焼酎は地域割りだからこのハンラサンも済州島でなくては買うことができない。ここには透明ボトルのハンラサン焼酎もあるけど、グリーンはマイルドでアルコールも少なめ、解いっても19.8%もあるのは、最近のマイルド傾向とはちょっと違う。

2012年6月28日木曜日

日本の名随筆11 酒(田村隆一 編)

足掛け17年にわたって刊行された全200巻からなる随筆アンソロジーの内の一巻。田村隆一が選んだ酒に関する名随筆。刊行は1983年、収集されているのは60年から70年にかけてである。銘酒、珍酒が今や一般的、誰でも手の届くものになった反面、文化としての酒ははるかに遠くなった。酒飲み、酔漢もすっかり過去のことである。
いい時代の味わいのある随筆。読むと飲みたくなる。
定価 1,200円、★★★

2012年6月27日水曜日

亀有の懐かしい本屋

昔本屋は平台だった。本や雑誌は腰の高さくらいの台においてあり、本棚のようにぎっしり詰まっていなかった(ような気がする)。そこには、小学一年生とか、冒険王とか、少年倶楽部とかそんな雑誌が並んでいる。外には、小学館や講談社ののぼりがある。そんな懐かしい感じの本屋が亀有駅前にあった。

2012年6月26日火曜日

Box! (百田尚樹)

Box!とはボクシングするという動詞。高校ボクシング部を舞台に、スポーツ万能の「鏑矢」と幼なじみで特進クラスの奨学生「木樽」とライバルたちがしのぎを削るボクシング小説。反射神経抜群、華麗でテクニックもある「鏑矢」、ひ弱で筋力も無い「木樽」、そして超高校級の「稲村」。3人は最後には戦うことになる。才能に優れるが練習をしない「鏑矢」、鈍重に猛練習に打ち込む「木樽」、努力で才能に磨きをかける「稲村」。自分を壊してまで勝とうとしなくてはならないボクシングの魅力、努力は才能を上回るのか、強いということは何なのか?木樽の頑張りが報われてほしい、という感情がどうしようもなく高まる後半の盛り上がりは痺れる。途中で姿を消す丸野の明るさ、本当はいい子の鏑矢、沢木と燿子の先生コンビ、いい小説は登場人物が皆魅力的だ。
若かったらボクシングをしたかった。 ★★★ 定価1,780円。

2012年6月25日月曜日

ウリスル 梨マッコリ (韓国みやげ)

最近は眞露も出しているフルーツ味のマッコリ。これは本場韓国?のもの。スーパーに行けば普通に買える。
マッコリの酸味が梨の甘みと調和してさわやかに旨い。微炭酸のサッパリ感は飲み込むとすっとした喉越し出終わる。後味がいいのも特徴だ。旨いからいくらでも飲めるのはかえって危険かも。梨以外にもりんごなどあるのだが、相性ではこれが一番。旨い。

2012年6月24日日曜日

東京かわら版 平成24年 7月

東京かわら版が届いた。早いなぁ、もう今年も半年終わりか。
今月のインタビューは7月16日に六代目 桂文枝を襲名する桂三枝。インタビューとしてのキレはないけど、いつもほんわかイイコトしか書かないこの雑誌の伝統だから仕方ない。五代目の大きく明るい芸とは対照的だけど、新作だけの六代目ってのもいいかもしれない。
落語界の隆盛はすごい勢いだ。かわら版もどんどんメジャーになってきた。なんとスカイツリーでもかわら版を買うことができる、ソラマチ亭へ走れ。ランナーズのように日経に広告を打てる日も近い、かも。

2012年6月23日土曜日

とうふみそ漬(熊本みやげ)

熊本で買った豆腐の味噌漬け、熊本名物といえば昔は辛子レンコン、今、馬刺。「豆腐の味噌漬け」も名物と「鶴屋デパート」で勧められて買ってきた。鄙びた土地を思わせる竹皮包装を開いてみると、昆布に包まれた豆腐を味噌に漬けた手間のかかった作り。味噌で金色の豆腐はねっとりと柔らかくてほろりと崩れ、カテッジチーズを固めた感じ。味噌と昆布のうまみがしっかりと豆腐にしみ込み熟成。味噌の塩味に豆腐の甘みがほんのり感じて、焼酎にも、清酒にも、もちろんご飯のおかずにもいい。酒の肴はご飯のおかず、の法則通りのうまい味。

2012年6月22日金曜日

水前寺のり(熊本みやげ)

熊本といえば水前寺。そんな代名詞の名前が付いているのに、空港でもスーパでも見かけたことはない。マイナーなのか、それとも旨くないのか? 見つけたのは「鶴屋百貨店」、地下にひっそり置かれていたものを購入。
見た目は普通のノリの佃煮。食べたらプリプリ寒天風の食感。佃煮も上品で御飯のおかずには最高。薄味だから酒の肴にもいい。かつては将軍への献上品、いまでも高級日本料理でつかわれるというのも納得、プリプリはとても珍しくて、うまい。
なんでも九州の一部にしか自生せず、今や絶滅危惧種、天然記念物の「水前寺のり発祥地」でも絶滅状態という貴重なもの。大変珍しいから、売ってないのも当たり前、というわけだ。

2012年6月21日木曜日

ラジオ・キラー(セバスチャン・フィツェック)

ベルリン警察の公証人「イーラ」は、その日自殺しようとしていた。錠剤を飲もうとコーラを買いに行ったリカーショップで巻き込まれた事件から助け出された先は、恋人も自らも不可解な事件に巻き込まれた「ヤン」がおこしたラジオ局での立てこもり殺人現場。そこで交渉人をやらされることになる。
幾十にも仕掛けられた真実が緊迫した状況のなかで少しずつ明らかになる、緊迫感を維持させたまま輻輳した状況が徐々に解きほぐされるのを読み進めるのが快感。最後にはどこに連れて行かれてしまうのか、作者の仕掛けに乗って最後まで一気読み。
定価 1,700円。★★★ (一気に読ませる驚異のサイコ・スリラーに間違いなし)

2012年6月20日水曜日

死者の鼓動(山田宗樹)

心臓移植のレシピエント「洋子」とドナー「玲香」は同じ高校の親友同士。前半では重篤な病を持つ父母の苦悩と、急激な娘の変わりように気持ちが揺れ動くドナーの母親が対比して描かれる。快方に向かっていたレシピエントの容態急変と脳死、突然現れ臓器提供に強硬に反対する父親の都合の良すぎる焼死、功をはやる助教授の移植準備の勇み足など、移植の現場での事故や軋轢をはねのけて移植は成功するも、提出と移植がレシピエントの父親だったことなど疑惑が発生。手術の描写は圧巻、ビジュアルと緊迫感でまさに立ち会っているような緊張感がある。

筆者の腕力は親友間の移植という特殊条件を設定して、移植を取り巻く課題をすべて入れこみ、圧倒的な手術描写に、医学ミステリーと一応破綻なく盛りだくさんの内容をまとめあげた。反面手術後の謎解き部分は冗長でキレがないし、手術描写も全体を通してみると浮いている感がある。夢中で読み切るも後で若干の違和感あり。 定価1,8001円 ★★

2012年6月19日火曜日

負け犬の遠吠え(酒井順子)

題名に引かれて読んでみた。調べてみたら10年近く前のベストセラー、アマゾンの書評が440件、五つ星から★一つまで均等でいかに反響が大きかったかわかろうというものだ。高学歴の女性の社会進出を背景に「負け犬」を未婚、子なしの30歳以上と明確に定義し、発生原因を考察し、特徴を分析したうえで、人としての処し方を諭す。自身を肴とした単なるお笑いエッセイとして読み流すべきところを、真剣に反応した書評が多いのは、筆者としてしてやったり、商品企画大成功というところだろう。周りの独身男女をみると、記述は今でも的確、つい「あの人」が目に浮かんでしまう。うまいなあ。 定価1,400円 ★★

2012年6月18日月曜日

小沢昭一的 新宿末廣亭十夜(小沢昭一)

2005年6月下席に新宿末広亭に小沢昭一が出演。10日間の口演の速記本だ。語るのは、落語でも漫談でもない。映画俳優、1973年以来40年近くも続く「小沢昭一的こころ」の演者、伝統芸の収集家、そして何より落語、寄席好きがとして語り込むのだから面白いに決まっている。小三治師曰く「最も良かったであろう寄席の雰囲気を一人で持っている」人気者の出演だから、毎日大混雑、正月以外は開けない2階も解放したあげくに、最後の三日は昼夜入れ替えという大入り満員が続いた伝説の下席の口演。
出囃子が聞こえ、拍手の後の登場の様子、開口一番でざわめきがなくなり、柔らかく語り始める。小さな笑い声、大爆笑、高座の様子と客席のうねりが聞こえてくる速記本。雰囲気もよし。定価1,260円 ★★★

2012年6月17日日曜日

はらこの甘煮(山形みやげ)

鯉の甘露煮はよくあるけれど、はらこだけは珍しい。鯉は内蔵が旨いというし、白子と卵で作っているから、数も少ない貴重なものだそうである。確かにWebページでも載っていない。
ここは寒河江で四代にわたって鯉を商っているという「丸原鯉店」で購入したもの。東京では鯉食は失われてしまったが、どこにでも居る魚だからかつては広く食べられていたのだろう。
しっかりと味付けられたはらこは旨い。純米酒でもご飯のおかずにもいい。

2012年6月16日土曜日

本金 太一 からくち

ぬのや本金酒造」とは名前が素敵。家族経営の小さな蔵であることがWebページからわかる。蔵は上諏訪駅からすぐのR20沿いにあるようだが、ここまでいかずに、買ったのはA・コープ富士見。
喉越しがよくて、呑みやすいうえに、旨みが太い。本醸造らしい甘味が嫌味でなく、旨口である。 いつものように常温で飲んで旨い。冷にすると少し線が細くなるが、この季節にはいい。信州名物の塩いかとまぐろの山かけに合わせたが、よく合う。 
太一とは杜氏の名前らしい。親子と杜氏の三人でやっているという蔵らしい良いネーミングだ。

2012年6月15日金曜日

ジャズと落語とワン公と(赤井三尋)

100周年間近の早稲田の総長室。村井総長の時代、これでいきなりやられる。当時早稲田に在学した10,000人くらいはこの本を買ってもいい。時代は大正末期、関東大震災の復興の東京。アインシュタイン、幣原外相、小金治、と実在の人物に、早稲田教授の等々力教授に助手の井上が謎解きをする。軽妙で当時の風俗がわかり、美味いものの楽しむという謎解き短篇集。早稲田学報に記載という体裁であるのも楽しい。続編はでないのか?
定価 1,500円 ★★

2012年6月14日木曜日

笑い三年、泣き三月(木内昇)

演芸の本場浅草で一旗揚げようと旅回りの一座を抜けだした萬歳師「善造」が上野に降り立つ。戦災孤児となった「武雄」と出会い、浅草へ向かう。終戦直後の浅草で、復興とストリップの黎明を背景に、小さな劇場をめぐる人々の物語。行く抜くのが厳しい時代、騙し騙されが当たり前出会っても、善造は名前の通り無条件の愛情を武雄に注ぐ、ストリッパーのふう子は、善意で周囲を明るくする。ドラマチックな事が起こるわけでもなく、淡々と話は進むが、つい引きこまれ読み進んでしまう。ああ、いい人達がいるんだ、と優しい気持ちになれる。世の中が落ち着くに連れ、皆居場所を見つけてばらばらになる最後でしんみり。 定価1,600円。 ★★

2012年6月13日水曜日

白露ふうき豆 (山形みやげ)

えんどう豆のあんこは「うぐいす餡」。山形の和菓子の筆頭は「ふうき豆」。市内七日町の老舗デパート大沼の蕎麦にひっそりとあるのが、山田屋。間口が狭いから車では見つけるのに苦労する。実は昨年は見つけられなかったのだ。
山田家の「白露ふうき豆」は見た目は、漉してないえんどう豆の形が残ってるだけだが、これがやたらと旨い。うぐいす餡とは同じ材料でできているとは思えないほどである。
砂糖がガツンと来る甘さではなく、むしろ控えめに感じる程だが、よくある薄味でパンチの無い砂糖控えめとは対局にあり、濃いのだ。バターが入っているようなしっとりした滑らかな口当たり、洋菓子でも食べているような濃厚な豆の旨み。夏は日持ちが3日、店舗でしか販売しないという潔さ。山形に行ったら絶対のお勧めだ。

2012年6月12日火曜日

銀山温泉 しろがね湯

銀山温泉のはずれにあるしろがね湯。狭い敷地に押し込められた小さな三角形の建物。浴室は一階と二階にあり、日によって男女を入れ替えているようだ。この日は男湯は二階。
浴槽は三角形でちょろちょろと湯が投入されている。狭いながらも若干の開放感があるが、一階は眺めもなく、閉塞感がありそうだ。あまり特徴のない湯で湯も疲れって居るようで500円は高いなぁ。旅館街にある大湯のほうがはるかによさそうだ、値段も安いし。

2012年6月11日月曜日

大野目温泉 と 麺屋丸文 (山形で食べる)

山形は蕎麦だけかと思ったら、ラーメン屋もたくさんある。マラソンの汗を温泉で流したらお次は腹ごしらえだ。今までは東根で温泉に入り、谷地の「鶏そば」をたらふく食べるのが黄金コースでもあったのだが、いつも混んでいるから今年は山形市内まで足を伸ばす事にした。
選んだもう一つの理由は温泉に近いこと。ゲソ天ラーメンで有名な「有頂天の元祖」併設の「大野目温泉」のすぐそばなのだ。まずは温泉だ、のぼりを目印に行けば間違いない。ラーメン屋の横にひっそりとある入り口。300円とは安い、なんとシャンプー、ボディソープまで付いている。大きな岩風呂には金気のある淡緑色の温泉が掛け流されている。適温で温まり、安くて空いている。理想の温泉だ。
汗の引くのを待ったらお次はラーメン。ここも人気らしく日曜日の午後3時過ぎでも多くの客がいる。注文は「丸文ラーメン大盛り」。透き通った蝦スープにワンタン、味付き卵に大きなチャーシューが三切れ。丼からはみ出しそうな勢い。上品でダシの聞いたスープが麺と絡む。旨味、サッパリを旨く組み合わせたうぜいたくラーメン、チャーシューをかじり、麺をかき込み、ワンタンのチュルチュルを味わう。旨い。

2012年6月10日日曜日

第11回さくらんぼマラソン

今年もはるばるとやって来たさくらんぼマラソン。もうすっかり毎年6月の恒例になった。毎回天気が良くて暑いが、今年は前日が梅雨入りで雲の多い肌寒い日。5月の気温というからレースにはかえって良かったとも言える。
今年の招待選手は川内さん。5月の仙台でも一緒に走った仲でもある。ランニングブームを反映してか参加者も多く一万人を超えたということだ。去年は駐車場への大渋滞にハマりほとんどスタート時間ギリギリだったから、今年は5時半に山形駅前を出発、6時過ぎには到着したのでスタートに近い好位置に駐車できた。ゆっくり準備をして、木造の味のある体育館でゆっくりくつろぐ。広い敷地の神町駐屯地も人で一杯。
仙台ハーフでは前半飛ばし後半バテたから、今回は最後尾につける、先頭が出てから3分たってようやくスタート。小中学生の応援がすごいのも特徴。出荷時期を迎えたさくらんぼ農家も作業の手を休めて応援してくれる。一キロごとの距離表示、頻繁にたっぷりとある給水、眺めのいいコースとレースとしての出来もいい。前半はのぼり一方、後半下りというのもいいコース取りだ。最後の3kmは基地内を走る。ここが意外と長いから辛い。今年は練習不足と不摂生がたたって最後の4kmは1分近くもペースが落ち、たくさん抜いたのに抜き返されてしまって悔しい思いをする。レース後はスポーツドリンクにおにぎり、さくらんぼとレース後の補給もばっちり。
良い大会だが、誤算もあり、最奥の駐車場だからスタートには近いが駐屯地の入り口からは遠い、まずい誘導のせいで1時間はぴくりとも動かず。帰りの大渋滞は勘弁だ。

2012年6月9日土曜日

次年子 七兵衛そば (山形で食べる)

山形は蕎麦の名所。次年子は羽州街道からは相当山に入る。今でこそ東根まで高速、国道347と県道36号が整備されているから雪がなければアクセスの問題は無いが、以前は大変な僻地。蕎麦はご馳走であったわけだ。土日は混むということだから、朝5時半に家を出て一気に次年子まで。県道から坂を上がるのだが大きな看板が出ているからすぐわかる。
10時半に到着するとすでに車が何台も止まっている。開店前でも戸を開けて番号札を取るのがコツ。そうでないとせっかく早く着いても順番が遅くなってしまうから。開店前にはすでに番号札を持った人たちが並び始める。

店内は民家そのまま、番号順に長机に詰め込み。まず出てくるのはつまみが三皿。ぜんまい、きくらげの芥子醤油と昆布の煮物。どれも旨いし量も多い。肉厚のきくらげはプリプリ。さすが山村。山菜まつりもあるというから来てみたいものだ。左端にあるのは大根のおろし汁。そばつゆを垂らして此れで食べるのだ。
肝心のそばは、田舎そばといったものでぼそぼそで歯ごたえのあるもの。一椀でも普通の一枚以上ありそうだ。おかわりは二つは無条件で配られる。三つからはおかわりを聞かれる。大食いの自信はあったが三倍でたっぷり。おろし汁はおかわりできるし、そばつゆもたっぷりあるから、ゆっくりじっくりと楽しめる。
ワシワシ、モリモリと食べて満腹。さすがの山形。旨い。