2011年5月10日火曜日

初恋温泉 (吉田修一)

文學界新人賞で、芥川賞、暇つぶし読書の対極にいる作家のはずなのに、読んでみたのはタイトルと装丁に惹かれたから。 
柔らかくて懐かしい「初恋」、表紙の緑の下にあるのは「温泉」、もちろんにごり湯。 舞台は五つの温泉、登場人物は男女二人。
同級の秀才美女を射止めた劣等生は、成功したゆえに別れ話を切り出される。ナンバーワンのセールスマンは一番であることが嫌だという妻に愛想をつかされる。不倫の男が待ち合わせた旅館に着くと女は携帯を残していなくなっている。時間をナタでたたき切ったように唐突に話が終わるから、どれも理不尽、納得できないままど読み手は突き放される。
よかったのは純情温泉。高校生カップルの初めての温泉旅行。何時までも続かないという女の言葉が理解出来ない男。 なるほど長じて女は理不尽になるのか、と理解できる。
突き放され、不条理が心地良い。 ★★ 定価1,300円。純文学とは高いものだ。